Reverse triangle



逆三角関係




我輩は受けネコである。名前は―――

「オスカー」
呼ばれて振り返った視線の先は、カフェテラス。
麗しい水の守護聖リュミエールと華やかな夢の守護聖オリヴィエが、お茶をしばいている最中だった。

逃げるか?

しかし逃げたら後が怖い。
悩める炎の守護聖オスカーがその場に立ち尽くしていると、リュミエールが微笑みと共にしっとりと小首を傾げ、オリヴィエが投げキスついでにちょいちょいと手招きした。

いいから早くこっち来いや。
二人の目と動作がそう語っていたが、それでも頑張ってじりじりしていると、機転を利かせたオリヴィエがウェイトレスを呼んだ。そしてわざとらしくオスカーを指差し、デザインカプチーノを注文したのである。

もしここで俺が帰れば、あのウェイトレスのお嬢ちゃんはどうなる?きっと泣いて悲しむぜ。

頬を染めたウェイトレスをちらつかされては帰れない。
餌に釣られてまんまとやって来た獲物の為に、リュミエールは空いていた椅子を引いてにっこり微笑んだ。
「ごきげんよう、オスカー。良いところにいらっしゃいました」
続いてオリヴィエがオスカーのマントを手繰り寄せ、早く座るよう促した。
「今ちょうどアンタのスケジュールを決めてたとこなんだよ」
「………」
渋々ながらも席についたオスカーは、態度だけでも攻めらしくしようと長い足を組んだ。そして周囲から放たれるレディの視線に対し、不敵な笑みで応えてみせた。
しかし攻め人を気取る赤毛をよそに、水色と派手色はスケジュール組みに熱心だった。
「今度の週末は、私の番だよね」
「そうでしたか?」
「もう、リュミちゃんってば。昨夜も散々お楽しみだったくせに」
「…フフフ」
「ちなみにどうだったの?」
「ええ、それはもう…」
「あら?これだと今夜もリュミちゃんの出番じゃない?少しは手加減してあげなさいよ?」
「ご冗談を…。手加減などしては強さを司るオスカーに失礼です」
「相変わらずパワフルねぇ。ホントは水じゃなくてガソリンの守護聖なんじゃないの」
「フフフ…どうりでオスカーも激しく燃えるわけです」
毎度の事ながら攻め組の会話に軽いめまいを感じていると、頬を染めたウェイトレスがオスカーの元へやって来た。緊張して手が震えているのか、差し出すカップとソーサーがカチカチ音を立てている。その初々しい仕草のおかげで、オスカーの荒んだ心が少し回復した。
「お嬢ちゃんのような可愛らしい女性に運んでもらえるなんて、俺もこのカプチーノも幸運だぜ」
パチリとウィンクを決めると、ウェイトレスは瞬時に茹で上がった。

俺ってやっぱし攻めだよな?

夢見心地で戻って行くウェイトレスの後ろ姿を目で追いつつ、オスカーの攻め魂が復活しかけたその時―――
「今週のスケジュールが決まったよん★」
錯覚は、打ち砕かれた。
「月・水・金がわたくしで、火・土・日がオリヴィエです」
「オスカー、ちゃんと覚えた?」
「木の曜日はフリーですが、殿方とのデートは固く禁じます」
「…誰がするか」
「よく言うわよ、誘い顔のくせに」
「また言いやがったな…!」
「男を惑わせながら聖地を練り歩く赤毛美人ともっぱらの評判ですし…」
「嘘だ!」
「視察先の権力者に見初められて足止め喰らったことあるくせに」
「それは…ッ!」
「アリオスに尻を狙われているという噂もありますし…」
「…い、言うな!」
普段はキザな態度で通すオスカーも、相手が攻め人となると途端にペースが乱れてしまう。
顔を真っ赤にして怒ったり、屈辱に唇を噛みしめたり、まつげを伏せて恥らったり、悔しさにちょっぴり涙目になったり、頬杖をついてふてくされたり。
「いつか必ず攻めに復帰してやるからな!」
そのままプイとそっぽを向けば、紅く染まった耳たぶが実に美味しそうだったり。
「…アンタねぇ、オスカー」
「なんだ」
「発情中のふけネコじゃあるまいし、明るいうちから誘うのはどうかと思うわよ?」
「だから俺は誘ってなんか…っ!」
「わたくし達をムラムラさせておきながら、本人は自覚なしですか…」
「…ねぇ、リュミちゃん?」
「何でしょう、オリヴィエ?」
「こうなったら今夜は3Pに変更しない?」
「フフフ…ニャンコしつけ教室プレイですね?」
ガクリと項垂れたオスカーの視線の先には、カプチーノ。
ミルクの泡に描かれたネコが、ふるふると愛らしく震えていた。

―――今夜の俺は首輪だな。…フッ。

底点を担うオスカーが、逆三角関係から解放されるのはいつの日か。
攻めの守護聖オリヴィエと寝ずの守護聖リュミエールによって、今夜も熱く燃え盛るであろう苦悩の守護聖オスカーであった。



fin






アクセス解析 SEO/SEO対策