Kiss in the Dark
夜。
まだ朝には遠く、闇と静寂が辺りを満たす、そんな時間帯。
「ん……」
オスカーは不意に目を覚ました。
隣を見れば、寝乱れたシーツの波間、自分を抱きかかえて眠る恋人。
カーテンのほんの僅かな間から漏れる一筋の光が、その寝顔を照らしていた。
本来なら締め切っていたはずなのだが、どうやら僅かに隙間が合ったらしい。
「…アリオス…」
夢現のまま恋人の名を呟き、ついで、半ば無意識的にその髪に手を伸ばした。
そっと指に絡めればするりと落ちてしまうその独特の感触を、しばし楽しむ。
そのまま、そうっと寝顔を覗き込んでいると、恋人が僅かに身じろぎをして、オスカーを引き寄せた。
「アリオス…」
起こしたか、と思いながら恋人の名前を呼ぶ。
けれど反応は無く、かすかな寝息が聞こえるだけだった。
人の気配に聡く眠りも浅いアリオスは、たまにオスカーが先に起きてもそれに気付いて起きてしまうことが多いのに。
―――それだけ疲れてるんだろうな……
自分を引きつけて止まない黄金と翡翠の瞳は閉じられ、穏やかな寝顔には疲れなどかすかにも見えないけれど。
ここ一ヶ月ほど、こいつが任務のために東奔西走していたのは知っているから。
「…アリオス」
もう一度、その名を呼び、完全に寝入っている事を確認してから、オスカーは己の唇をアリオスのそれに重ねた。
身の内から湧き上がってくる、どうしようもない愛おしさを感じながら―――。
END.